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激闘の出産

西條です。
産まれました。二世誕生、女の子、体重3470g、元気。
臨月に入り、初産なので予定日は未定日。早くも遅くもなるとは思っていたが、
1週間以上遅れているので、このまま三年身篭るんじゃないかという気分。
陣痛もこれが陣痛なのかどうなのかな、という感じで過ごしていた。
その日は朝から嫁の様子がおかしく、これは来るかなあとは思っていたが、
思ってからが長かった。

朝5時に起きて仕事の支度をしていると、のそのそと嫁が起きてきて、ソファに寝転がり、
嫁「なんだか定期的に痛みが来ているような来ていないような、なんだよね」
なにかあったら連絡頂戴と言い残し、僕は家を出る。
数時間後、メールすると母親を呼んで病院にいくと判断したようで、その数時間後、入院が決まった。
にわかにドキドキしてきた僕は仕事中手元がおぼつかない。周りの人間も気を使って自分の時の体験談を語ってくれたり。

14時過ぎ。連絡取る。義理の母、姉が来てくれて三人で陣痛室にいる様子。
嫁は電話に出れず、義理の母と話す。陣痛の感覚をノートに取ってくれているようで、今のところ10分間隔で陣痛が来ているとのこと。うーん、産まれるぞこれは・・・仕事先の方々皆に
「連絡あったら全部放り出して病院行きますから」
と言って、準備万端。すぐにも行きたかったが、今行っても邪魔になるだけだから行かないほうがいい、と周りの経産婦達に言われる。

16時過ぎ。陣痛が4分間隔になってきたと電話が入る。
自分が行ってもいいのか行ってはいけないのか全然わからない。
母曰く「まだまだなのよ」
結局仕事をちゃんと終えてから向かった。

病院に着くと想像通り、嫁が陣痛室でぐったりしている。
手を握る。義理の姉と母はクールに陣痛の間隔を計っている。
パン等食べる。
しかし嫁は入院時から気持ちが悪く、水も食べ物もまったく食べていないらしい。プリンはちょっと食べたらしい。嫁はちゃんと入院時の準備をしていたので、寝ながらペットボトルの水が飲める用ストローや時計、テニスボール、カロリーメイト等々、グッズは充実している、ものの。

陣痛が来るのがわかり、うっと痛みをこらえる嫁と、それを見て、時間を計る母と姉。
苦悶の表情だが母と姉は「大丈夫なのよ」「これがもっと多くならないと生まれないのよね」と平然としている。
看護婦が来て、ノートに取った陣痛の間隔を伝えると、
看護婦「陣痛の間隔を取っている時は、まだ全然産まれませんから、取らなくていいですよ。シャワー入ってきますか?」
嫁「大丈夫です」
シャワーに入る気力が無いらしく、トイレに行くにも痛みとの戦いに成っている。

20時。面会時間が終わり、母と姉が帰る。
僕は立会いを希望しているので、付き添い可能であった。
立ち会う旦那の三割くらいが、気持ち悪くなったり倒れたりするらしい。
僕はエログロテスクな映画や動画を幼少の頃より観ているし、高速道路や踏切でワイルドなボディを見ているから大丈夫と思っては、いるものの、実際にはどうなのかわかんないよなあと思いつつ。

陣痛はドンドン間隔が狭くなっている気がして、明け方までには生まれそうだとドキドキである。
嫁はどうやっても逃れられない痛みとモニターをつけての体勢の辛さと戦っている。
陣痛が来るたびに体がこわばり身動きが取れなくなっている。

23時。検診。夜勤の看護婦さんがやってきて、子宮口の開き具合を検査。
嫁は意識が半ば朦朧としている。そろそろ限界だろうし、陣痛間隔も3分を切っているからあと1,2時間くらいだろう、と思っていたんだが、
看護婦「うーん、上手くいけば明日の昼くらいかな」
という言葉に初産夫婦愕然。

西條「だって陣痛三分間隔くらいじゃないですか?痛みも入院時と比べて全然強くなっているし、初産て10~12時間で出産が平均なのに、昼から入院なんだから、もうそんな時間でしょ」
看護婦「食べてないので体力が落ちているんです。それが原因で陣痛の間隔も3分どころか5分以上あいてますし、陣痛自体も弱くなっているんです。強くなっていると思うのは体力が落ちていることが原因なんです」
しかしそれじゃあこれからどうやって体力を回復させればいいんですか?
看護婦「食べたり飲んだりしてください。そして陣痛の合間に少しでも寝てください。リラックスしてね、シャワー入りますか?気分転換に」

正直どうしていいかわからなくなる。
さっきより食べられなくなっているのに。
それに陣痛の合間に寝ると言っても、5分経ったらまた陣痛が襲ってくるんだから寝られないじゃないの。
看護婦「その5分をなんとか寝るんです、疲れてるから寝られるんですよ」
と看護婦にっこり。
笑顔を信じるしかない状況。

嫁「炭酸系の果物のジュースなら飲める」
というので三階の自動販売機でオレンジの炭酸ジュースを買う。
嫁、頑張ってちょっと飲む。飲むだけで体力が消耗している気がする。
看護婦「旦那さんが付き添うと、甘えちゃって寝られないかもしれないので、一旦家に帰ってもいいと思います」
僕は一旦嫁から離れることを決意。
看護婦「明日が本番ですから、旦那さんも倒れないようにしてもらわないといけません、休んでください」
夜中0時過ぎ。

嫁にその旨伝え、陣痛室を後にする。
たった一人で真夜中に置き去りにするのはかなり抵抗あったが
看護婦の言うことが一番正しいとは思わざるをえない状況。

仕事場に戻り、少し仮眠を取らせてもらう。
が寝られない。寝なきゃいけない。寝られない。今日は朝5時起きだったので眠い。けど寝られない。悶々としながら、でも気づいたら30分から1時間、寝ることが出来た。

夜中三時頃、病院に戻る。
冷たいスポーツドリンクと果物系ジュースと麦茶とアンパンをコンビニで買い、近くの牛丼屋でヤンキーカップルが牛丼と青春を食べているのをガラス越しに見て、ああこの人達も、こんなに親が苦労して生み出した子供なんだよなあ、と、、、自分も省みる。

リラックスモードの電灯が照らす暗い陣痛室に入ると、
嫁の横で看護婦なにやらやっている。嫁の腕から管が天に向かって通っている。
看護婦「体力の消耗が激しくて脱水症状も起こしているので点滴を打っています」
嫁に寝れたか聞いたら、少し寝ることが出来た、とさっきよりちょっとだけ、生気を取り戻した目をしている。

手を握って計測器のモニターを見る。
モニターの数値と波形が何を示しているのか理解する。陣痛が来るぞ、というのが僕にもわかるようになり、腹の子が元気に心臓を動かしていることも理解出来る。

朝方。もう一度離れて寝かせよう、と
病室のソファに僕は移動。看護婦さん達に内緒で仮眠。出来るわけもなく、ただじっと座る。
となりは新生児室。すでに生まれている赤ちゃんが並ぶ。泣き声がする。ズボンの両ポケットに入れた安産の守りを二つ出して握る。曇り空が顔を出す。朝6時。

看護婦「シャワーに入ってはどうでしょうか?気分転換に」
嫁「わかりました」
三階のシャワー室に移動。痛みが治まる時間を待ってゆっくり進むので、移動だけでヨタヨタと20分以上掛かる。
シャワー室には入ったが、
嫁は水の中で腹が痛くなることが怖くて入れない。僕も怖くて一人にしづらい。
そんなやり取り。後、気合で入る。気合以外では前に進めないことは二人とももう悟っている。
ドライヤー掛けるにも痛くて出来ないので僕が髪を乾かす。

朝9時。
助産婦がやってくる。通院時の担当医である助産師もやってくる。
検診。子宮口は昨日よりは開いているらしい、が出産予定は昼12時で変わらず。
助産婦「体力も落ちてるから促進剤入れましょう」

朝10時。
義理の母やってくる。僕の分の食事も持って来てくれた、僕も倒れるわけには行かないのでとにかく全部食べる。

ベッド上の激闘はこの時点で20時間以上となっている。
買った500mlのペットボトルはオレンジ炭酸ジュースを含めて全部で7本。飲みたいものがすぐ飲めるように、いろんな種類を用意。だが飲めた分の合計は300mlに満たない。
促進剤投入。
昨日の看護婦さんよりも余裕の笑顔で助産婦は言う。
「もっと痛くならないといけないからね、頑張って」

促進剤は点滴と一緒でポタポタとチューブを伝って嫁の中に入る。
30ml超えたくらいから陣痛がさっきよりも強くなっていった。
急激に強くなるということではなく、1時間置きにドンドンと強くなり、
検診をするたびに陣痛強度が一段階づつ上がっていくようで、汗も声も出る。

陣痛の間隔は3分を切る。モニターで確認してもそれはハッキリし始める。モニターが刻む波形は富士山を何度も描き、その度に嫁は「腰が割れる」と答え、波が来るたびに「嫌だなぁ、嫌だなぁ、」と言って耐える。ベッドの鉄棒を握り締める手と僕の手の甲に立つ爪が痛い。

昼12時。
検診。
助産婦「日のあるうちに産まれるでしょうけど、まだですね」
死んじゃうんじゃなかろうか、とリアルに思う。

さっきよりも陣痛の痛みは大きくなったようで、
嫁は必死に意識を違う方に向かわせようと、呼吸法の冊子を何回も読んでは呼吸法にしがみつく。
どうしても痛くていきんでしまいそうになるのだが、子宮口が狭いままでいきむと腹の子供のストレスになってしまうようで、それを三分置きになんとか阻止しようと戦う。
助産婦「あと一時間くらいかな」
もう三十分も待てない、嫁は「もう次の陣痛がきたら耐えられる自信が無い」と言い始める。「気絶するかもしれない」と言い始める。陣痛が来そうになる度に「嫌だなぁ、嫌だなぁ、」と言っては呼吸法にしがみついて、いきみたくないのにいきんでしまう自分に自己嫌悪している。

僕もクラッと来た。
まずい、と思って椅子から立ち上がって伸びをしたり深呼吸したり。
手を握ってじっと同じ体勢だったからか腰が一生涯で一番硬くなっている。
ここで倒れたら僕はかなり格好悪い。

15時。助産婦と助産師がやってくる。
助産婦「じゃあ分娩室に移動しましょうか、旦那さん立ち会います?よね?」
ビデオカメラを手に取り、荷物をまとめて分娩室に消える嫁を見送る。
しばしして、入る。

分娩台。ここに座るまで入院から述べ27時間。
嫁の頭の方に回り、ビデオカメラをスイッチを入れる。

助産師「じゃあ一回息を吸って・・・吐いて・・・もう一回息を吸って、ピタッと止めて、
いきんでーーーーー!
おっけい・・・そんな感じだね・・・少し休もうか・・・じゃあもう一回息を吸って、、、止めて、
いきんでーーーーー!
・・・うーん、髪の毛が見えてきたね・・・もう一回行こうか・・・・じゃあ息を吸って、、、吐いて・・・息を吸って、止めて、
はい!・・・ぐー・・・っと、ね、はい、いいよ・・・少し休もうか」

分娩台のレバーを握りしめる酸素マスクをつけた嫁。
薄いゴムの手袋をパチンとはめる助産師。
口に細い管を銜えてニヤッとして構える助産婦。
カメラの液晶から見える三人が、恐ろしくかっこよく見える。

助産師「はい、いきんでーーーー!
・・・はい。。。もう今一番狭い場所を通るところになってるから・・・うん、え?何?(隣の部屋からやってきた看護婦が、なにやら助産師に話しかける)・・・うん、だからそれは院長先生通してって伝えたじゃん、言うだけじゃなくて、自分でやらなきゃさ・・・あのさ、それ院長先生に話してって言ったでしょ(助産師、よくわからんが隣の部屋へ・・・助産婦、嫁にハハハと笑いかける。戻ってくる助産師)
・・・じゃあ深呼吸して・・・はい!

・・・そう、よし・・・(注射器みたいなものを手に取る)
・・・もう一回か二回でお産になりますんで、その前に少し綺麗に切開しますね(ハサミみたいなものを手に取る)・・・はい。いいですか?
・・・息を吸って・・・止めて・・・いきんで!(助産師、嫁の腹を手で押す)
いきんで!(助産師、嫁の腹に両手を置いて一気に体重を掛ける)

一気に体重を掛けたまま強く押し出す。

助産婦、何かをこじ開けるかのような肩の入り様。

嫁の足の間からピンク色の塊を引っ張り出す。
助産婦「おめでとー」
壁の時計を一瞥。
助産婦「41分」
口に銜えた管で、嫁の足でよく見えないピンク色の塊からなにやら吸いだす。
ギャー!と泣き声。
助産師、嫁の胸にシーツを掛ける。シーツが手袋に付いた血で赤く染まる。
その上にピンクの塊がギャー!と叫びながら運ばれる。
嫁が手を伸ばす。

嫁「わぁかわいい」

ピンク色の固まりは6月生まれの小さな人間。
体重3470g。女の子。言われなきゃ男の子かと思う顔立ち。
「こんにちは」何度か言った。聞こえていないかもしれないが沢山言った。
「ありがとう、お疲れ様」一回言ったらもう言えなくなってしまった。

二時間ほど、分娩室で過ごす。
その間、17時頃、名前をつけた。

激闘28時間。ウチの嫁は世界一だと思わせるには十分すぎる時間だった。
もっと時間のかかる人もいるだろう。それでもその時は必ず来ると信じて乗り切るしかない。
とりあえず、そうかなと思ったら、無理やりにでも何か食べるべきです。

出産は命がけだホントに。
この地獄を抜けて命に恵まれない場合もある。僕たちはとんでもなく幸せ者だ。と改めて思う。

仕事先で皆に報告。携帯で皆に報告。ありがとう、ご縁のあった人達。産婦人科の助産師、助産婦、看護婦の皆様。
出産よりこれから20年の方がもっと大変なんだからな、と言われる。
まあ、でしょうね、でもまあ、なんとかなるでしょ、三人よれば、ですよ。

雨が大嫌いな僕にとって、6月は一年で一番嫌いな月だ。
娘の誕生日はそこそこに強く雨が降っていた。来年もその日だけは降ってくれるといいな。
たった一人で生まれてこなかったことを、娘に伝えなきゃと思う。

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2012年06月14日 12:13に投稿されたエントリーのページです。

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